2018年04月14日

美学の中で生きる 〜熊本地震から2年〜

美学の中で生きる 〜熊本地震から2年〜


人格者というものは
遠くにいるのではなく
意外と近くに
実はいるのだと
私は取材をする中でよく思います

前例を知らない状況の中で表れるものは
常日頃積み重ねてきた
些細な
でも習慣となった思考や行動であることを
ハッと気づかされるのです


熊本地震から2年


誰かの体験が
誰かの教訓となるかもしれません



益城町の平田地区で
素敵な元気3姉妹とお父さんが運営する「みっちゃん工房」では
ベビーリーフが作られています

メモして貼っておきたくなるような言葉を
長女の遠山 智美さんから
たくさんいただきました



【みっちゃん工房のベビーリーフ】

3姉妹がスイカ、ミカンなどの果樹を育てていた
お父さんの農場を受け継ぎ
まだスーパーに並ぶことの珍しかったベビーリーフの
栽培を始めたのが10年ほど前。
女性でも作りやすいような
体に負担の少ないものをつくりたいと選びました。


取引先を探すことからのスタートでしたが
女性が買いたくなるようなサイズ感やパッケージなど
主婦ばかりのスタッフみんなアイディアを出し合い
健康ブームも相まって
みっちゃん工房のベビーリーフは
みるみる人気に。



阿蘇から流れるミネラルたっぷりの地下水で作るベビーリーフは
関西の人からは「味が違う」といわれることもあります。

「ベビーリーフの出来は「水」が決め手なの」

智美さんは そう教えてくれました




美学の中で生きる 〜熊本地震から2年〜


[仕分け作業中]
美学の中で生きる 〜熊本地震から2年〜




【 熊本地震発生 】

2度の震度7に見舞われるも
まだ新しかった工房は幸い無事。


しかし水は出ない。

水を汲みに水源地まで行ったけど
まっ茶色でどうしようもありませんでした。


近くのそうめん滝が回復して
タンクに汲んで対応しましたが
それまでの2、3日で
多くのベビーリーフがダメになってしまいました


そして
電気が通らない
電気がないと冷蔵庫が使えない


ベビーリーフは収穫して冷蔵庫で予冷してから出荷しますが
電気が通るまで10日ほどかかり大打撃…

せっかく育ち収穫しても予冷ができません。






先を見据え地震の翌日からタネを蒔きました。

種植えから収穫まで約2週間。
その間に電気や水道が戻ってきますようにと祈りを込めて。


[出荷前の野菜たち]
美学の中で生きる 〜熊本地震から2年〜


**

工房は 地震の直後から
従業員家族や近所の人の避難先ともなりました。

1ヶ月ほど工場で生活をする人や
避難している益城町の体育館から働きに来てくれるスタッフも。


みんなの距離が近くて、深くて、明るい。
それがみっちゃん工房です。


残念なことに
平田の集落では4名の方が亡くなられました

その中に
昔 お手伝いに来てくれていたおばあちゃんがいたことに
心が痛みます

 

【ふるさと という感覚】

思い返せば、精神的にとてもきつい時期がありました

「なんだろう?」と最初は分からなかったのだけど。



通りなれた道
遊びに行っていた友人の家

壊れて崩れているのを目の当たりにしたときに
どうしようも太刀打ちできないものに
親が痛めつけられているような

そんな苦しさを感じたのです


それがどういう感覚なのか
気づくまでに少し時間がかかりました



そもそも
ここは住みなれた地元だし
大切な人たちはいるんだけど
「ふるさと」というような
ほくほくと温かく感じるような
そんなものではありませんでした

それは
政治的に安定しなかったり
派閥があったり
マイナスな面もよく知っているからかもしれません。


だけど 理由も分からずなんだか苦しい。


そんな時、近くの美容室を訪れた際

「益城町民だから、益城のためにがんばる」

と言い切った美容師さんの言葉を聞いてハッとしました。



「あぁ、そういうことか。
 益城は自分をつくった血でもあり、肉でもあるったいね」


そう感じて覚悟が決まった。

「今ここで自分の地元に向き合わないでどうすっと!
 益城のためにがんばりたい。」

益城を大切に思う
郷土愛というものに気がついた瞬間でした。


【自分の美学の中で生きる】


震災後、益城では
行政に対して住民からも全国からも
批判の声やバッシングが寄せられました。


不手際もあったし、初期対応の遅れもあるし
ボランティアさんの受け入れをできる体制が整うのも遅かった
というのが大きな要因かもしれません。

確かにもっと準備をしておく必要があったのかもしれません
そうできたのかもしれません


だけど
かばうわけではないけど
2回の震度7の地震を体験した地域が他にありますか?

仕方がなかったことも多かったのではないか
という思いは否定できません。


どうしようもないくらいフル回転したって
間に合わないくらいの被害だったよね?って。

あるスタッフのご主人は公務員で
家は全壊しながらも
休みはとれず
連日泊まり込みで夜遅くまで働く必死な姿、
家族が彼を送り出す様子を 真近で見てきました。



みんなが精一杯でした。
みんなが等しく被災者でした。

誰が責められるでしょうか。





何もかもがごった返した状況の中で
自分たちのニーズが叶えられるのを待っていても
いつになるか見通しが立たないまま時間は過ぎます。

その間に自分たちが知恵を出し合って
力をあわせることはできます


町内で連絡網をつくって安否確認をしました。
小さなことながら、わずかに復興の兆しを感じました。

手をとり合って生き抜く希望の光というようなものでしょうか。

その当時感じたことを
智美さんはこう振り返ります。


「こういうときだからこそ、
生きるための想像力を働かせなんとよね。

そして、日頃から知恵や柔らかさを蓄えておく。

例えば、隣の人に必ず挨拶するとか、笑顔でいるとか、
そういうシンプルで基本的なことなんだけど。

それがおろそかになったとき、
変な情報に踊らされちゃったり
人を傷つけるようなことをしたり言ったりしがち。

だけどこんな時は助け合わんとどうしようもないたいね。」



そして走り抜けた2年間を前にして。


「実際に困ってどうしようも動けん人もいただろうし
だけど残念ながら誰かの不備を叩くことに一生懸命の人もいた。
大変な中で人に手を貸す人もいた。

自分のことができたら、人のこともできる。
自分を整えておくことで
誰かに手を差し伸べられるものだって
目の当たりにした感じ。



これは誰もに起こりうる、未曾有の災害の時。



こんなときにどうするか、
それが人間力というか。

心のあり方を自分に問いながら
自分の美学の中で生きていかなきゃ。

他力ではなく、自立して、ね。


その時は必死だったけど
日頃の積み重ねという生き方がそのまま出るとよね。
そんなことを今 改めて思うとたい。」



【熊本は、東北の真似をしたらいいよ】

2年経った今でもまだ地震の中で生きている人もいる。
前をなかなか向けない人も。

実はお父さまもそのうちのお一人でした。



被害の大きさだけでは測れない精神的な打撃。

来てくれたボランティアさんの中には東北の人や
阪神淡路大震災を体験した人が。

彼らは地域に物資を配りながら、
お父さんのお話を聞いてくれました。

ただただぶつけようのない思いを聞いてくれたことで
少しずつ明るさを取り戻しました。



「何も不安にならなくていい。
熊本は東北の真似をしたらいい。
僕たちはしっかり東北を復興していく。
だからね、熊本はただマネをしたらいいよ」



経験者の声に
どれだけ私たちは救われたでしょうか。

復興を担う背中がどれだけ勇気を与えてくれているでしょうか。



私たちは、これから他の地域で災害があったときには
同じ傷を共有できる。

これからは
「そうだよね」
って言ってあげることができるようになりました。


お父さんの話を聞いてくれたボランティアさんのように。



【手を繋ぐってきっとこういうこと】

工房の損害は1千万円を超えます。

加えて、
2016年、2017年合わせて4回の台風をお迎えしちゃって
もうさらに1千万を超える額が乗っかった。

震災で抱えた損害もまだ整理できていない状況の中です。

「やめて〜!って思うけどどうしようもないもんね。
そのくらいで済んだって思わなきゃ。」


そこで以前ご紹介したチロアウトさんのお話。

チロアウトさんがお店を再開するときに
お祝い金をお渡しになられたと
このブログの中でも書きました。
余裕がない中で どうしてそんなことができたのでしょう。


「あの人たちはね
『え、明日ビニールハウスにシート張るの?
じゃあ手伝いにきます!』
って言って 本当に来てくれそうな人たち。
あの大変な中 それを実行できる人はきっと多くないよね。


うちのベビーリーフをとても気に入ってくれているし
一生懸命作っていることを理解してくれている
その想いに応えたいって気持ちもあるかな。

それに、
私はあの親子の明るさから元気をもらっとるとよ。
まだ熊本に来たばかりのお母さんに
益城を嫌いになってほしくなくて。
あんな素敵な店を益城に構えてくれて嬉しい.

だからね、お互い様とよ」

***

彼女たちの明るい声が
工房から地域へ広がって行く様子がありありと見えます。



もう2年

まだ2年

まだまだこれから




益城は強い

熊本は強い

人間は強い

美学の中で生きる 〜熊本地震から2年〜





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Posted by hachidori.photo at 00:19│Comments(0)熊本:農家さんくまもと地震life
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